ぶらり国・府

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むかし、本町の安養寺にえらい住職がいて、全国から優秀な弟子が集まってきていました。なかでもはるばる九州からやってきた若いお坊さんは毎日まじめに働き、住職はその働きぶりにいつも感心していました。ある春の昼下がり、お坊さんは修行の疲れで居眠りをして、その時うっかりしっぽが出てしまいました。住職に正体がばれてしまったのです。「おまえはたぬきだったのか。」お坊さんはあわてて“しっぽ”をかくしましたが、もう間に合いません。そこで住職に向かって両手をついて言いました。「私が人間に化けてもう三千年もたちます。幸運なことに天竺(インド)でお釈迦様のお説教を聞くことができました。お世話になったお礼に、明日の夕ぐれに人見が原でその様子をお目にかけますのでぜひ来てください。しかし、どんなことがあっても合掌だけはしないでください。」たぬきはすべてを住職に打ち明けると別れのあいさつをして姿を消しました。翌日の夕ぐれ、住職は弟子たちをつれて人見が原に行きました。そこは、府中の町の北東部にあり、当時は野原でした。近くには小高い丘があり、ここを浅間山といいます。住職たちがじっと待っていると、しばらくして浅間山のあたりに光り輝くお釈迦様があらわれました。住職たちは目の前に仏の世界があらわれたことに驚き喜んで、つい思わず合掌して拝んでしまいました。すると、たちまち仏の世界は消えてしまいました。あとにはいつもの風景があるだけでした。その後、たぬきが住職の前にあらわれることは二度とありませんでした。このお話に出てくるたぬきが書いたとされる文書が、今も安養寺に宝物として保管されています。